日付は1996年7月21日、場所はアメリカ、舞台はアトランタ五輪、会場はマイアミ・オレンジボウル。
気づけばもう25年が過ぎようとしている。
この試合で一番印象に残っていること、それは
日本がブラジルに勝ったこと・・・ではない。
「日本代表レベルになると、1人くらいはブラジル代表にいてもおかしくない選手っているんだ。」と当時の私は軽い気持ちで思ったこと。
私はその認識が、四半世紀立って間違いだと気づきはじめている。(いや、久保建英という選手を見て、もしかしたらと期待している。)
スポーツの世界には、10年に一人の逸材・・・こういった選手が現れているが、本当に現れる10年に一人の逸材はなかなかいない。
私が思う日本サッカーでの10年に一人の逸材は
・中田英寿:1977年1月22日・・・アトランタ:シドニー
※前園 真聖、中村俊輔、小野伸二、高原 直泰、本山雅志、稲本潤一、遠藤保仁・・・
・本田圭佑:1986年6月13日・・・北京:アテネ
※松井大輔、香川真司、清武 弘嗣、長友佑都、酒井 弘樹、乾貴士、長谷部誠・・・
・大迫勇也:1990年5月18日・・・ロンドン五輪:ブラジル五輪
※南野 拓実、中島 翔哉、宇佐美貴史、原口元気、柿谷 曜一朗・・・
・久保建英:2001年6月4日・・・東京五輪:パリ五輪
※堂安 律、三好康児、中井 卓大、斉藤光毅、西川潤、椿直樹・・・
実際には8年に一人みたいになっているが、この中でも一人を選ぶとしたら「中田英寿」しか考えられない。(もしかしたら数年以内には「久保建英」にかわっているかもしれない。)
ちなみに、男女と言われると「澤穂希」です。これに関しては100年後も変わらないと思われる・・・W杯優勝、ボランチでW杯得点王、MVP、バロンドール・・・前置きが長くなってすみません。
この時のブラジル代表は、1994年にアメリカW杯を制したメンバーが、オーバーエイジとして参加しています。
対する日本代表は、オーバーエイジを使わずに23歳以下の選手だけで、構成されたメンバーです。
メンバー紹介
それでは、U23日本代表とU23ブラジル代表のスターティングメンバーをご紹介します。
GKですが、横浜Mで日本代表守護神の松永成立からポジションを勝ち取り、攻めるセービング、炎のゴールキーパー川口能活。
DFに、シドニー五輪世代から飛び級で出場した松田直樹。
のちにジュビロ磐田の黄金期を支える田中誠、こにらもジュビロの黄金期を支える闘将!鈴木秀人。
MFに、柳本の後継者としてサンフレッチェ広島のサイドバック路木、和製マラドーナこと職人!伊藤テル、のちにジュビロの黄金期を支える服部、まさかこの時、遠藤兄と呼ばれることになるとは思っていなかった遠藤。
そして、この世代のスーパースターであり本家和製マラドーナことゾノ!前園真聖。
そして松田と並び、飛び級で選ばれたまさに10年に1人の逸材!中田英寿。
FWに、高卒新人として開幕からの連続ゴール記録を持っていた、エースのジョー!城!
◆出場選手(背番号あり)
【U-23日本代表】
フォーメーション 3-6-1
GK:1.川口能活
DF:13.松田直樹、5.田中誠、3.鈴木秀人
MF:17.路木龍次、8.伊東輝悦、6.服部年宏、10.遠藤彰弘(後30白井崇)、7.前園真聖
FW:14.中田英寿(後37上村健一)、9.城彰二(後41分:松原良香)
監督:西野朗
【U-23ブラジル代表】
フォーメーション 4-4-2
GK:1.ジーダ
DF:2.ゼ・マリア、3.アウダイール、4.ロナウド、6.ロベルト・カルロス
MF:5.フラビオ・コンセイソン、8.アマラウ(後1分:15.ゼ・エリアス)、9.ジュニーニョ・パウリスタ、10リバウド
FW:7.ベベット、11サビオ(後19分:ロナウジーニョ)
監督:マリオ・ザガロ
この試合の日本代表監督は西野朗さん、まさかこの時は、2018年ロシアW杯で日本代表監督をすることになるとは、この時は夢に思ってなかったでしょう。
試合開始前にブラジルベンチが映りますが、ザガロ監督は笑っています。10点ぐらいとって勝つつもりなんでしょう。
「この試合終わったら何食べる?」「スシ?」という冗談が聞こえてきそうです。
前半のキックオフ
現地時間の午後6時半を過ぎたところで、メキシコの主審アルクンディアさんがキックオフの笛をふきます。
日本は中盤を厚くした3-6-1、ブラジルはサビオ、アマラオ、ベベット、ジュニーニョとボールを回し序盤からゲームを支配します。
開始2分、伊東?→中田→服部→路木とつなぎ、左サイドを突破した路木から良いクロスが入り、ロベルトカルロスと競り合いながら中田英寿がヘディングシュート。
シュートはミートできませんでしが、この試合のファーストシュートを日本代表が放ちます。
その数分後、城のポストプレーから服部、服部が前に出したボールを中田がキープし、サイドを駆け上がってはっていた路木にノールックパス、パスを受けた路木が中央にセンタリングを上げますがジーダにキャッチされます。
左サイドから日本もチャンスを作ります。
前半16分、アウダイールからボールを奪った伊東テルから中田にパス、パスを受けた中田が、中央で深い切り返しからボールをキープし、右サイドの城に良いボールがでます。
今思うと中田らしい、体の使い方でブラジル代表を翻弄しています。
そして、前半35分頃、この試合1番印象に残っているプレー。
中央からブラジルDFの裏に出たパスに対して、中田英寿がボールをキープしながら、アマラウを押さえつけます。アマラウの突進を受けても軸がぶれない中田、驚異のボディバランスでそのままボールをキープします。
このキープにメインスタンドのファンが立ち上がり、スタジアムがどよめいていたような気がします。
前半41分過ぎ、ゼマリアが出した不用意な横パスを、出足の良い中田が奪い、そのまま駆け上がります。少し溜めた後、走りこんだ城に絶妙なスルーパスが通ります。城はシュートを打たずに、誰もいない中央にプレゼントパス、あっさりチャンスが潰れます。
しかし、この頃から単独でチャンスを作り出せそうな雰囲気がブンブンします。
試合の中で目立ち始めた中田英寿、ここでアウダイールがボールを受けた中田の後ろから「大人しくしてろ」と言わんばかりにファールで潰しにかかります。
いや、既にこの頃からファールではないと止められないのでしょう。解説の松木氏が「中田良いですよ」と言えば、解説の松下賢次氏も「中田は目立っています」とべた褒めです。
その直後、路木からパスを受けた中田は、最初のトラップで前を向くと、ルックアップしてFWの城にキラーパス!しかし、城はオフサイドの判定。
嘘だろ!と両手を挙げるパフォーマンス、このプレーはなんだろう、城らしい。
前半はこのまま進み、0-0。ブラジルを0点に抑えたこと、本当に驚き興奮したのを覚えています。
解説の解説の松下賢次氏が前半を振り返り、左サイトの路木や遠藤、そして今日は中田が目立ちますねと相変わらずべた褒めで、松木氏が冷静にたしなめます。
しかし、私も同じ感想で、川口も凄い、そして中田、こんな選手が日本にいたんだと、しかも飛び級でブラジルとわたりあう、興奮しすぎてハーフタイムもドキドキしっぱなしです。
ザワザワ、、後半が始まります。
ザガロ監督の怒号が日本列島にまで聞こえてきそうなブラジル代表、ここで選手を変えてきます。アマラウに変わってゼ・エリアスが入ります。
開始早々、左サイトを突破したロベカルからベベットにセンタリングがあがり、ヘディングシュート。前半の中田のヘディングシュートを彷彿とさせます。
ここからは圧倒的なブラジルペース、是が非でも先制点が欲しいブラジルが、ジュニーニョのFK、ジュニーニョのクロスがポストに直撃するなどヒヤリとした場面が続きます。
日本も中田、城、前薗、路木と絡みチャンスを作りに行きます。
田中から中田、中田が遠藤にサイドチェンジ、遠藤から前薗に出したボールがこぼれたところを、中田がダイレクトでキラーパス、必死に戻るロベルトカルロスがたまらずクリアをします。
後半の15分、ロナウジーニョがアップを開始すると、スタジアムが熱狂のうずに、アップだけで「足が速そう!」「めっちゃ速そう!」「ロベカルと同じ助走でFKけりそう」など、ブラウン管の前から聞こえてきそうです。
ロナウジーニョ(の心の声:妄想)「この俺が日本との試合で出場することになるとは夢にも思わなかったぜ」
後半20分を過ぎても0-0、まだ0-0です。勝ち点1が取れるかもと、解説・実況もざわつきはじめます。そして、苛立ち始めたブラジルファンが、ピッチに乱入します。
後半27分、ロナウジーニョのドリブルをカットし、そこから何人か繋いだボールを左サイドを受けた路木。その路木からブラジルDFとGKの間に走り込んだ城に、クロスボールが入ります。
アウダイールとジダが交錯して、ボールがこぼれ落ち、伊藤テルが無人のゴールに押し込みます。
先制ゴールは日本1-0
得点者:伊東
ここからブラジルが怒涛の攻めをみせます。
日本は川口を中心とした全員守備で守り切ります。
日本サッカー史上最大のアップセット
日本1 vs 0 ブラジル
中田は試合後、こんな言葉を残している
「サッカーっていうのは何が起こるかわからないからね。ブラジルに日本が勝ったからって、そんなにはしゃぐことでもないでしょう」
なんだろう、ジョホールバルの奇跡が起きた直後のインタビューでも「Jリーグを盛り上げていきましょう」みたいなことを言っていたが、中田はこのころから中田なんだな。